ヨシノボリ類、及び甲殻類等の河川遡上調査ライン

観察期間 2000.04.01〜05.11
観察地 多摩川中流域堰堤下
観察者 中本 賢



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T.観察概要
長い冬が終り、川の水温が上がり始めると沿岸の海や河口付近から成長や成熟を終えた魚が夫々の目的の為に川をのぼり始めます。
今回、観察地点とした河口から約25キロの中流域を代表する堰堤です。
ここでは毎年4月から5月にかけて魚道をのぼりそびれた多くの遡上魚を観察する事が出来ます。
遡上もピークを迎えるとダムサイト面をジャンプする魚も増え、いったいどんな魚がこの多摩川を遡上しているのか大変興味の湧くところです。
この魚達を定点観察ながら魚種や数の変化を調べます。
水質の改善や魚道の整備など、多摩川の川環境は著しい変化を遂げています。
この川を遡上する魚達にもそういった新しい変化は生まれているのでしょうか・・・・・・・・・・。
堰堤の下に溜まった遡上魚を観察しながら現代の多摩川事情を想像します。
今回は”アユ”や”川マス”といった泳ぎの強い遡上魚だけでなく、主に流心から遠く離れた岸辺や川底を遡行する泳ぎの弱い魚を中心に多摩川中流域での魚の移動を観察しました。
今年で3回目の定点観察ですが、これまでは観察地点が禁猟区内なので、実際に魚を捕まえて魚種を確認することは出来ませんでした。
しかし今回は川崎漁協の協力を頂き、直接魚を捕獲する仕掛け罠を使うことができました。
この仕掛けは中部地区を中心に古くから伝わる『のぼり落とし漁』という主にドジョウを捕る為の仕掛けで、流れの弱いダムサイト面に板をはわし上流への流れを装い、魚をのぼらせてカゴの中に落とすというやり方です。

左岸側ダムサイト面と遡上魚が溜まるプール。 ダムサイト面に設置した『のぼり落とし漁』の仕掛け

約2.5キロ下流にある堰では改修工事と共に魚道も新しく生まれ変わり上流側では以前に増して遡上魚の観察が面白くなっています。
さて、春の多摩川ではいったいどんな魚達が上流を目指しているのでしょうか・・・・・・・・・・・・。
桜の咲き始めた4月15日から5月11日までの約5週間、カゴの中に入った魚の合計は1528匹となりました。
以下はその内容と状況です。


U.捕獲魚種

NO. 捕獲魚種 体長(cm) 捕獲数量
ヨシノボリ類 4.5〜8.0 680
タモロコ 5.0〜7.5 353
モツゴ 6.5〜8.0 52
オイカワ 5.5〜12.0 54
アブラハヤ 9.0〜16.0 13
ウグイ 5.5〜12.0
フナ類 9.0〜36.0 42
コイ 11.0〜20.0
ニゴイ 7.2
10 カワムツ 6.5
11 アユ 8.0〜10.0
12 ムギツク 8.5
13 ギバチ 8.5
14 ウキゴリ 3.8
15 ウナギ 26.0〜50.0
16 ナマズ 52.0
17 ドジョウ 11.0〜12.0
18 シマドジョウ 6.0〜8.0 80
19 スジエビ 3.5〜6.0 150
20 モクズガニ 1.5〜6.0 86



スジエビとモクズガニ タモロコ・モツゴ・アブラハヤ・オイカワ ヨシノボリ類


≪日割り捕獲状況表≫
水深:(cm) 水温:(℃)
観察日 4/2 4/3 4/4 4/5 4/6 4/7 4/13 4/14 4/15 4/23
天気 快晴 曇り 快晴 曇り 曇り 快晴 曇り 快晴
水深 37 35 36 51 46 42 53 48 43 41
水温 13 13 13.5 14 13 14.5 16 16.5 14.5 18.5
ヨシノボリ類 34 13 26 13 34 17 40 38 46
タモロコ 17 14 26 35 13 41 26
モツゴ 10
オイカワ 10
アブラハヤ
ウグイ
フナ類
コイ
ニゴイ
10 カワムツ
11 ムギツク
12 アユ
13 ナマズ
14 ウナギ
15 ウキゴリ
16 ギバチ
17 ドジョウ
18 シマドジョウ 18 18
19 スジエビ 32 60
20 モクズガニ 11 13

観察日 4/24 4/25 5/4 5/5 5/6 5/8 5/9 5/11 5/12 5/13
天気 雷雨 快晴 快晴 快晴 曇り 曇り 快晴 曇り 曇り
水深 60 54 43 45 41 34 40 33 41 40
水温 17.5 19 20.5 21 19.5 23 21 21 22.5 21.5
ヨシノボリ類 54 28 136 90 38 46 21 17 24
タモロコ 50 20 40 53 10 11
モツゴ
オイカワ
アブラハヤ
ウグイ
フナ類 11
コイ
ニゴイ
10 カワムツ
11 ムギツク
12 アユ
13 ナマズ
14 ウナギ
15 ウキゴリ
16 ギバチ
17 ドジョウ
18 シマドジョウ
19 スジエビ 14 33
20 モクズガニ 24
※水温:午前10時から11時までの仕掛け設置地点にて計測。
※水深表示は、同時間帯における堰堤ダムサイト直下の川底コンクリート面から水面までの高さを表示。


調査途中で釣り人などによる仕掛けのへの妨害も多く、はっきりした数にはならなかったのが残念ですが以外な発見も多く、十分満足できる結果となりました。
以下はこの観察から想像できること・・・・・・・・。

V.考 察
≪魚の殆どが移動している≫
この観察の目的は海と川を行き来している回遊性の生き物を調べるはずでしたが、実際に一番仕掛けに入ったのは産卵のために上流へと移動したがっているコイ科の魚でした。
タモロコ・モツゴ・フナそれにヨシノボリ類等は卵を沢山抱えている成魚サイズで、カゴの中に入れるサイズは全て入ったようです。
しかし、落としカゴの構造上、中層を泳ぐ泳ぎの上手な魚種は一度カゴに落ちても出て行ってしまうので、物陰の好きなタモロコ以外は正確な数字になっていません。
オイカワやウグイなども同じ理由でサイト面をジャンプしているようです。
殆ど移動しないと思っていた魚も多く、この大移動の様子は意外な結果となりました。
春に川を遡行するのはアユやマスなどアブラビレのついている魚だけでなく、川にいる殆どの魚が動くことが解かりました。




水しぶきの周りで黒ずんで見えるのが群れ 水中での産卵シーン ダムサイトにしがみ付くモクズガニ



≪タイミングは増水後の平水位≫
魚は何時も同じだけ入ったわけではありません。
雨による大きな増水(水位が50センチ以上上がった日)は4月の5日、11日、20日と3回ありましたが、増水中ではなく水の引き始めから平水位に落ち着くころが魚種と数が最も入りました。
河口から上がってくるモクズガニにその特徴は最も出ています。

≪水温と移動の関係≫
水温は4月2日の13℃から5月11日の21℃までの約8℃の変化がありました。
その移り変わりの中で、夫々の遡行のピークはほぼつぎの通りになりました。

ヨシノボリ 18〜21℃
タモロコ 16〜20℃
シマドジョウ 14〜19℃
フナ類 17〜19℃
モクズガニ 14〜19℃

水温の差で遡上期がおおよそ解かるのはこの五種類で、スジエビは雨などの理由で一気に温度の下がる日に突出して多く入ることも解かりました。

≪遡上アユと集まる魚≫
4月の中旬くらいから堰堤の下に6〜8センチほどの遡上アユや放流アユが(判別は魚の大きさによる)溜まり始めました。
それと同時に”ナマズ”や”ウナギ”なども投げ網や仕掛けに入るようになり、どうやらアユの香りに誘われて出没し始めている様子です。
人間がたべても旨いものは、やはりナマズやウナギも旨いようで、突然活発になります。
それまでは”サギ”や”カワウ”などの鳥も溜まっている魚を全く無視していましたが、同じアユの到来と共に堰堤の下でジャンプする魚を食べ始めるようになりました。
夜、タモ網や投げ網で調べたこれまでの観察では、アユが溜まって眠るトロ場にてスッポン・雷魚・カメやナマズなど、殆どの魚好きが集まっていました。
アユ以降は初夏までオイカワやヨシノボリなどもかなりの量が誘発された魚好きに捕食されているようでした。

≪意外な魚≫
一番驚いたのはギバチです。
昨年の台風で上流から落ちて来たらしいギバチを見つけて以来、家の前では二度目のご対面となりました。
しかし、体長が去年の二倍以上に大きく育ったギバチで、流れ落ちたギバチが家の前の多摩川で育ったのか、若しくは以前から生息していたのか、いずれにしても冬を越してここで生活しているのには夢が膨らみます。
一匹しか入りませんでしたが「産卵」若しくは「偶然」どちらにしても上流を目指したギバチに会えたのは本当に嬉しく思いました。
きっとギバチもこの辺でこっそり暮らしているに違いありません。
他にシマドジョウやムギツクも多数入り、共に中流での定着を成功させているようです。
これも嬉しい発見になりました。

ムギツク ギバチ シマドジョウ


W.観察をして嬉しかったこと
そもそもこの観察を始めた動機は川底を移動する生き物と出会いたかったからです。
アユやウグイは中層を駆け抜けていくだけで、そういった泳ぎの旨い遡上魚達を観察するだけでは、家の前辺りの川環境が解かりにくいと思ったからです。
逆に川底を這って遡行するハゼの仲間やカニなどは放流魚である可能性も低く、川底の状態やダムなどの障害物の影響がそのまま”数”や”種類”に出るはずで、そういう”底モノ”を観察することによって今まで知らなかった新しい多摩川との出会いを期待したからです。
今回、一番楽しかったのは、海と川を行き来するそういった底モノと数多く出会えたことです。
ヨシノボリ類では”トウヨシノボリ”や”オオヨシノボリ”それに”モクズガニ”に至っては甲羅幅2センチに満たない遡上サイズが80匹も入りました。
”ウキゴリ”の幼魚が入った時は嬉しすぎて涙が出そうになりました。
体長3.8センチ、たったの一匹だけですがヒラヒラと大きな尾鰭を動かしながらその弱々しい泳ぎで遠い川旅をここまで来られた奇跡を私は多摩川の未来と思いたい。
だれも知らない濁り水の中で何時の間にか魚達の”春”が訪れている事を知る、貴重な体験となりました。

By KEN NAKAMOTO
HP Design By TANSUIGYOCLUB’S SAKU
02.October.2001 Ver.1


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