多摩川に生息するアユの産卵水域と産卵生態観察
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観察期間 2000年10月12日〜11月4日
観察地 多摩川中下流域
観察者 中本 賢


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T.観察概要

アユは、その魚生の半分を川で過ごします。春に幼魚は海から川へ上り、夏に成長、秋には川を下り、中下流域で産卵し魚生を終えます。
そして孵化した稚魚は、ただちに海へと流下、河口沿岸域にて冬を過ごして翌年の春にふたたび川を上ります。アユは大変人気の高い魚です。夏の風物詩として、アユとの出会いを求め、多くの人々が川へと出掛けています。管理する側も、春から初夏にかけて大量のアユを放流し、その期待に答えようと努力をしています
 

1.観察目的
  アユの川での生活史の中で、もっとも重要なのは産卵です。産卵状態の良し悪しは、翌年の遡上数にも直接結びつくのではないかと考えています。たとえば18pのメスのアユで、約3~5万個の卵を産みます。百匹なら300万〜500万個にもなります。産卵期の産卵床を保護し、より良好な産卵環境を提供することは出来ないでしょうか──。
多摩川は、かつてアユの名川でした。ふたたび、多くのアユが暮らす川になれるなら、それは流域にとっての大きな財産にもなります。放流主体による数の確保だけではなく、アユの産卵生態を観察、把握し、産卵床の保護と管理をほどこしながら、魚自身の自然再生率を高められたらと考えています。

2.現  状
  毎年、アユは重要な水産資源として、多摩川でも遡上実態調査が春に行われて、遡上数をおおよそ把握することが出来ます。
しかし、産卵行動については、これまで主だった調査は行われていなかったようで、現場での聞き取りでも、情報自体にそれぞれ個人差も大きく、現在の多摩川におけるアユの産卵生態はほとんど把握されていない様子でした。

3.観察方法
  多摩川のアユがどの水域で、どんな場所選びをしながら産卵しているのか、現時点での産卵行動の把握と観察を行います。
通常は潜水による水中直接観察が主になりますが、水の透明度の関係上不可能であり、観察方法として産卵時間帯に産卵域に投網を打ち、入った産卵アユの位置と状態を記録しながら、産卵床の割り出しや産卵生態などの観察をします。

20001012日から114日までの14日間で、投網を投げた回数計239回、内、網に入った172匹のアユの位置と、その産卵床の形態を観察しました


U.アユの産卵行動について

 産卵期を迎えたアユは川を下り中流域と下流域の境になるような水域で産卵に適した瀬を中心にして群れを作るようになります。産卵は主に夕方から早朝にかけての夜間に水深の浅いなだらかな瀬の中で行われますが、最盛期は日中でも観察出来るようになります。
通常は陽が傾く頃になると淵で群れていたアユが水面を跳ねるようになりそのまま徐々に下流へと移動し、やがて瀬に入ると群れた状態のまま産卵を繰り返します。
瀬は水深30センチ以下の浅い場合が多く、瀬の前後に橋や支流の流れ込みなどがあって流れに変化がある方がより好みます。

*産卵の瀬へと向かうアユの群れ。 *メスの放卵と同時に群がるオス。
*投網に入ったアユの群れ。 *お腹を押すとたまごが出て来た。



V.観察区域の設定

 観察区間となる産卵区域は1997年と1998年の観察及び他の河川で行った観察を参考にして予想し設定しました。
 河口から14キロ地点にある堰から24キロ地点の計10キロ内です。この10キロ内に瀬は合計19段ありアユの姿のない瀬から消去法で観察区域をせばめていき産卵の行われている水域を割り出しました。


W.投網による産卵アユの位置観察

 以下は産卵時間帯に産卵に適した瀬を中心に投網を打ち、入った産卵アユの位置と数を書き出した観察ポイントです。 図の中にある丸で囲った数字は網を打った場所とその順番が記入されています。図の下は、そこで入った魚の一覧になります。

第1ポイント
観察日 2000.10.13(金)
観察時間 15:20〜19:30
天候 曇り
気温 19℃
水温 21℃
水量 普通
水質 良く澄んでいる
捕獲魚種の匹数・サイズ
番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm)
@ 捕獲なし ** *** G オイカワ  8〜10 L オイカワ  8〜10
A 捕獲なし ** *** ニゴイ 10〜20 M オイカワ  8〜10
B 捕獲なし ** *** ウグイ 10〜11 N アユ 18〜22
C 捕獲なし ** *** チチブ  8 オイカワ  8〜10
D 捕獲なし ** *** H チチブ  8 ニゴイ 10〜12
E アユ 18 I アユ 21 ウグイ  9
F オイカワ  8〜10 J オイカワ 11 O アユ 17〜19
ニゴイ 10〜12 K 捕獲なし ** *** オイカワ 10
カマツカ  9 L アユ 18 ウグイ 10〜12
(観察メモ) 15時現場着、すでに投網打ち師4名が入った後の観察となる。持っていたクーラーボックスを見せてもらうと、大量のアユがつまっていた。  投網に入ったアユは、まだサビがほとんど出ていない状態だった。5キロ上流では、すでに産卵が始まっている。

第2ポイント
観察日 2000.10.24(火)
観察時間 15:00〜17:30
天候 晴れ
気温 20℃(15時自宅前)
水温 20.5℃(現場)
水量 普通
水質 良く澄んでいる
捕獲魚種の匹数・サイズ
番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm)
@ オイカワ 10〜12 H アユ 18♂ ** *** ** *** 
カマツカ 12 I オイカワ 11 10〜12 ** *** ** *** 
A 捕獲なし ** *** カマツカ  9〜10 ** *** ** ***
B カマツカ 13 ナマズ  17  ** *** ** ***
C 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
D 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** *** 
E アユ  18 ** *** ** *** ** *** ** ***
F アユ 18〜19♂♀ ** *** ** *** ** *** ** ***
G アユ 17〜20♀ ** *** ** *** ** *** ** ***
観察メモ) メスの腹は張りがなくなり、すでに産卵後の体になっている。オスは7匹中1匹、流心の早瀬でなく、多くが岸寄りのチャラ瀬にかたまっていた。

第3ポイント
観察日 2000.10.24(火)
観察時間 18:00〜20:00
天候 晴れ
気温 20℃
水温 21℃(現場)
水量 普通
水質 良く澄んでいる
捕獲魚種の匹数・サイズ
番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm)
@ 捕獲なし ** *** ニゴイ 12〜16 ** *** ** *** 
A 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** *** 
B アユ 19♀ ** *** ** *** ** *** ** ***
ニゴイ 12〜20 ** *** ** *** ** *** ** ***
C アユ 17〜22♂♀ ** *** ** *** ** *** ** ***
ニゴイ 12〜16 ** *** ** *** ** *** ** *** 
D アユ  17 ** *** ** *** ** *** ** ***
ニゴイ 12〜15 ** *** ** *** ** *** ** ***
E アユ  17〜19♂♀ ** *** ** *** ** *** ** ***
観察メモ) メスのお腹はよく張っていて、触れるだけで卵が出てくる。産卵の時期が上流方と少しずれているようだ。

第4ポイント
観察日 2000.10.25(水)
観察時間 16:15〜18:20
天候 雨〜曇り
気温 20℃(16時自宅前)
水温 20℃(現場)
水量 +5cm
水質 良く澄んでいる
捕獲魚種の匹数・サイズ
番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm)
@ アユ 1 17♀ ニゴイ 1 11 J 捕獲なし ** ***
オイカワ 2 10〜12 D アユ 2 17〜18♀ K 捕獲なし ** ***
A アユ 1 18♀ ニゴイ 2 13 ** *** ** ***
ニゴイ 1 13〜20 E アユ 2 18〜20♀*1 ** *** ** ***
カマツカ 1 10 ニゴイ 2 13 ** *** ** ***
B アユ 2 18♀*1 F アユ 3 18〜20♀*2 ** *** ** ***
オイカワ 1 G 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
ニゴイ 2 13 H アユ 1 18♀*1 ** *** ** ***
C アユ 1 19♀ I 捕獲なし ** *** ** *** ** ***

(観察メモ) 前日に産卵後のボケたアユを、東京岸側排水溝で確認。しかし入ったアユは、まだ産卵色の薄いアユがほとんどで、オス、メスの判別はかなり困難。全体としてサイズが小さかったが、日の暮れと同時に、水面を跳ねるアユがかなりいた。 コサギ11羽、アオサギ4羽、カワウ7羽、近くの洲に止まっていた。

第5ポイント
観察日 2000.10.25(水)
観察時間 18:30〜20:30
天候 雨〜曇り
気温 20℃(16時自宅前)
水温 20℃
水量 +5cm
水質 良く澄んでいる
捕獲魚種の匹数・サイズ
番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm)
@ カマツカ 14 オイカワ 9〜14 L 捕獲なし ** ***
A ニゴイ 12 ニゴイ 12 M オイカワ 11
B カマツカ 11 G アユ 12〜18♂ N アユ 17〜21♀*2
C アユ 19♀ オイカワ 9〜14 O アユ 20
オイカワ 10 ニゴイ 12 P 捕獲なし ** ***
D 捕獲なし ** *** H 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
E アユ 18♀ I 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
オイカワ 23 9〜14 J ニゴイ 15 ** *** ** ***
F アユ 20♀ K 捕獲なし ** *** ** *** ** ***

観察メモ) 産卵行動中のアユが、分かりやすく入った。G、Hの位置は、はっきりした位置で産卵アユが入る。入ったオスは、すぐ判別できる特徴があった。 全体として群れは小さく、十匹前後の産卵群のようだ。

第6ポイント
観察日 2000.10.26(木)
観察時間 18:20〜20:30
天候 晴れ
気温 22℃(11時35分自宅前)
水温 22℃(12時あ35分調布)
水量 普通
水質 良く澄んでいる
捕獲魚種の匹数・サイズ
番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm)
@ コイ 56 G 捕獲なし ** *** P 捕獲なし ** ***
A アユ 19♀ H アユ 20♂ Q 捕獲なし ** ***
ウグイ 13 I 捕獲なし ** *** R 捕獲なし ** ***
B 捕獲なし ** *** J 捕獲なし ** *** 捕獲なし ** ***
C 捕獲なし ** *** K 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
D アユ 21♂ L 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
オイカワ 11 M 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
E 捕獲なし ** *** N 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
F 捕獲なし ** *** O アユ 17〜19♀*2 ** *** ** ***

 (観察メモ) 午前中の見回り時、小サギ、カワウ数百羽を見る。アユ産卵との関連を考え集中観察を行った。しかし、はっきりしたアユの産卵行動は見られなかった。


第7ポイント
観察日 2000.10.27(金)
観察時間 17:05〜18:55
天候 曇り〜晴れ
気温 17℃(16時50分自宅前)
水温 19℃(現場)
水量 普通
水質 良く澄んでいる
捕獲魚種の匹数・サイズ
番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm)
@ オイカワ 12 G アユ 17♀ ** *** ** ***
A オイカワ 11〜13 オイカワ 11 ** *** ** ***
B オイカワ 12 H *** ** *** ** *** ** ***
C アユ 18 I オイカワ 10〜12 ** *** ** ***
オイカワ 12 J アユ 18〜20♀*2 ** *** ** ***
D アユ 23♀ K アユ 19♂ ** *** ** ***
オイカワ 10〜13 L アユ 12〜18♂ ** *** ** ***
E アユ 22♂ M アユ 17♂ ** *** ** ***
F アユ 20♂ ** *** ** *** ** *** ** ***

 

(観察メモ) より強く婚姻色の出たアユのオスが網に入るのは、平瀬もしくは流心の早瀬であり、産卵行動中の可能性が高い。したがって他の場所で入るのは、メスではなく婚姻色の出てないオスの可能性もある。  サビの強く出たオスが入る位置では、オイカワが入らないのは理由があるかも知れない。


第8ポイント
観察日 2000.11.04(土)
観察時間 15:00〜16:15
天候 晴れ
気温 17℃(15時自宅前)
水温 17℃(現場)
水量 +10cm
水質 やや濁っている
捕獲魚種の匹数・サイズ
番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm)
@ 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
A オイカワ 10 ** *** ** *** ** *** ** ***
B 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
C 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
D 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
E 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
F 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
G 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
** *** ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
観察メモ) アユは一匹も入らず、水面を跳ねるアユもなし。すでに、この辺りのアユは下流へと落ちた可能性あり。

 


第9ポイント
観察日 2000.11.04(土)
観察時間 16:30〜17:00
天候 晴れ
気温 17℃(15時自宅前)
水温 17℃(現場)
水量 +10cm
水質 やや濁っている
捕獲魚種の匹数・サイズ
番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm)
@ 捕獲なし ** *** H 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
A 捕獲なし ** *** I 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
B 捕獲なし ** *** J 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
C 捕獲なし ** *** K 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
D 捕獲なし ** *** L 捕獲なし ** *** ** *** ** ***
E 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
F アユ 18♀ ** *** ** *** ** *** ** ***
モツゴ 12 ** *** ** *** ** *** ** ***
G 捕獲なし ** *** ** *** ** *** ** *** ** ***
(観察メモ) アユは一匹も入らず、水面を跳ねるアユもなし。すでに、この辺りのアユは下流へと落ちた可能性あり。

 


第10ポイント
観察日 2000.11.04(土)
観察時間 17:10〜18:30
天候 晴れ
気温 17℃(15時自宅前)
水温 17℃(現場)
水量 +5cm
水質 澄んでいる
捕獲魚種の匹数・サイズ
番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm) 番号 魚種 匹数 サイズ(cm)
@ 捕獲なし ** *** I アユ 16♀ ニゴイ 12
A 捕獲なし ** *** オイカワ 10〜13 Q 捕獲なし ** ***
B 捕獲なし ** *** J ニゴイ 13 R アユ 20
C アユ 19♀ K 捕獲なし ** *** オイカワ 10〜13
D 捕獲なし ** *** L 捕獲なし ** *** ニゴイ 15
E ニゴイ 13 M 捕獲なし ** *** 20 捕獲なし ** ***
F 捕獲なし ** *** N 捕獲なし ** *** 21 捕獲なし ** ***
G アユ 15 15 O 捕獲なし ** *** 22 アユ 18〜20♀
H オイカワ 10〜13 P アユ 18 ** *** ** ***

(観察メモ) 産卵アユは、時期や水温の下がり方とともに、より下流側の産卵瀬へと移動する可能性あり──。
 ここのメスは、卵がよく詰まっていて、これから始めるという感もあった。

 




X.観察における考察

 多摩川の中流域は、他の河川と較べて、川の規模が大きく、一人での観察では届かないツメの弱さを感じました。
産卵水域全体の実態を把握するまでには至りませんでしたが、各ポイントでの産卵生態観察は、それなりの満足のいく記録を取ることが出来ました。

    以下はこの観察から考察できる多摩川のアユの産卵生態です。

 1.多摩川アユの産卵水域
 これまでの他河川で行ったアユの産卵行動観察を参考に、多摩川での産卵水域の予想を立て、投網観察を重ねながら実質的な産卵水域を探しました。

       《標高差による考察》
 多くの河川でアユが産卵床として選ぶのは、上流域から続く勾配のある流れが、中流を経て平坦な流れ変わる直前になることが多いようです。そしてそういった場所は、おおよそ汽水域の入り口近くである場合が多く、孵化した仔魚がいち早く海へ入れるための場所選びではないかと考えられます。

 多摩川でのそういった場所を、地図上の標高点から探しました。


グラフ上から、勾配がなだらかになり始める20キロ地点、上下5キロずつ計10キロを産卵水域として予想し、断続的に投網観察を行いました。計9日間の投網観察により、産卵行動中のアユがもっとも多く入ったのは、17キロ地点から22キロ地点を中心とした場所で、多摩川のアユも、他の河川と同じ条件の中で、産卵水域を選んでいることが解かりました。


   2.産卵の場所
     アユも他の多くの魚がそうであるように、瀬の中で産卵をします。

 産卵水域内で、もっとも産卵生態がはっきり理解出来た、堰の瀬を使って、産卵環境を図で表します。                      *使用投網─目合1614ヒロ

                                               

 図−11

                    点線は10cm毎の水深を表しています。Aは水深10cmの平瀬、
                    Bは水深20cmの早瀬、Cは10cm未満のゆっくりした流れです。



             図−12
                グリ石とはこぶし大の石です。ゴロタ石はそれ以上、砂利はそれ以下を言います。

産卵行動中のアユが多く入ったのは、図─11で示す水深10pのラインから20pに移るあたりにある平瀬内でした。同じ平瀬でも、流れがより直線的な部分を好むようです。Cの10センチ未満の中にある、浅い瀬でも産卵アユは入りました。この場合、流れを分ける洲に近い場所をより好むようでした。

特に、図─12の平瀬内前後にある“カタ”と呼ばれる部分では、出水の際、新しい産卵に手ごろな砂利が運ばれるため、全体に水アカの付いてない浮き石が多く、オス、メスの産卵アユが投網に同時に入る場所でした。

多摩川の産卵水域全体で見ると、産卵は産卵水域全域で行われるのではなく、川の合流点や砂洲、河中工作物(橋)などの回りに集中するようで、かなり特定的な感じがしていました。 



   3.産卵アユは淵から降りてくる
産卵アユの行動を観察していると、まず陽が暮れ始めるのと同時に、群れ始めたアユが淵の奥で水面を跳ね始めます。

 これは、銚子川や新川の観察時と同じ現象で、おそらくエサを取っているのではなく、産卵を始める前に群れ始めたアユが、高密度の状態に興奮し水面上を跳ねているのではないかと考えています。 

 この群れは、流れに乗って少しずつ下流へと下がっていき、やがて日没とともに瀬に入って、産卵行動へと移ります。産卵行動中に足を踏み入れても瀬を下って逃げることはまずなく、足にぶつかるようにしながらも上流側へと逃げます。安心して産卵を待機できる場所、どうやら産卵をする瀬の上には、発達した深い淵が必要のようです。

 今回の観察中でも、もっとも安定して産卵アユが見られた瀬は、いずれも前方に広く深い淵があり、逆に前方が水深の浅いトロ場では、産卵時間帯に入っても、入るアユは極端に小さくなりました。

 以上のことからも、産卵アユは、下流側から瀬を登って産卵行動を取るのではなく、上流側にある発達した淵から下って産卵行動に入っているのが想像できました。


  4.産卵アユ数
産卵行動中のアユを投網で捕るのは、比較的簡単です。大抵は大きな群れとなって産卵に夢中になっていますので、投網をうまく打つと、一度に30匹以上入ることもよくあります。

 多摩川の観察で感じるのは、この河川規模から考えても、大変アユが少ないことです。今年のアユは豊作だったにも関わらず、産卵に集まるのは、1群れ10匹未満の群れが多く、あの夏のアユはどこに行ってしまったのだろう・・・と考えてしまうほどです。

 原因は、おそらく釣り師や網師による乱獲です──。特に9月下旬から10月中旬の禁漁日の頃に、網で取り去られるアユは、産卵のために群れていて数集めが出来てしまいます。

 観察中、アユの付く瀬でヘッドランプを付けた網師とよく出会いましたが、どのクーラーボックスにもいっぱいの産卵アユが入っていました。

“アユは一年魚だから、捕りつくしても良い”アユの悲鳴が聞こえてきそうです。


Y.観察を通じて感じたこと

多摩川のアユの産卵場所を探して今年で3年目になりました。

 他の河川での観察を参考に、おぼろげながらですが、今年でおおよその産卵水域と産卵生態を想像できるようになりましたが、まだまだ追って観察を続ける必要があります。

 今年の多摩川は、アユがたくさん泳ぐ川でした。親しみ深いアユが、たくさん暮らす川が流れているのは、流域の人々にとって大きな財産だと思います。

 神奈川県の資料によると、今年、多摩川に放流された稚アユは、県内配給率の5%、150キロ、約5万匹でした。卵の数だけで言えば、メス2匹分の量です。

孵化した仔アユは、降河の間に傷ついたり他魚に食べられたりして相当に減耗しています。

昭和60年秋に行われた長良川の調査によると、産卵水域下限(河口から38.1q)を流下した仔アユは、17億尾、23キロ地点通過尾数は、約8億尾と推定され、この15キロの間の減耗率は53%と報告されています。もち論、流下する仔アユの総数が減れば、食害の率は上がり、減耗率もさらに上がります。やはり、出来るだけ多くの仔魚を孵化させ、海へと送り出さなければいけない気がします。

 多摩川の産卵水域内には、産卵に適した場所があまり多くはありません。たとえ産卵に適した瀬があっても、体積した水アカが河床石間を埋めていることも多く、産み付けられた卵の多くが酸欠を起こして、孵化せぬまま終わっています。

産卵水域に保護水面を設定して乱獲から産卵アユを守り、卵が酸欠を起こさないよう産卵床を少しずつ掘り返してやりながら、より多くの仔アユを海へと送り出してやる必要を感じました。

 放流は、決して川を豊かにはしていません。産卵形態を把握し、産卵床の保護、管理をほどこしながら、魚自身の自然再生率を高められたらと強く希望しています。


                                                

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