ヨシノボリ類、及び甲殻類等の
河川遡上調査、結果報告
ライン

調査期間 2001.03.23〜05.07
調査地 多摩川中流域堰堤下
調査者 中本 賢


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T.観察概要
待ち遠しい春がやって来ました。河原の草花も思い思いに花を咲かせています。川の中でも長い冬が終り、眠りから目覚めた魚達は夫々に産卵や遡上へと活発に動き始めています。
今回も引き続き、仕掛けカゴを使いながらこの時期に多摩川流域を移動する魚達の魚種と数を記録に取ります。
観察場所も同じく中流域にある堰堤左岸魚道下で行いました。
この堰堤は農業用水の取水堰で河口から約25キロの中流を代表する堰堤でもあります。魚道は左右両岸に付いていますが、魚道の入り口がダムサイト面より前方へ大きく突き出している為、入り口を見つけそびれた遡上魚が毎年ダムサイト面直下で多く溜まります。
仕掛けに使った罠は中部地区を中心に古くから伝わる『のぼり落とし漁』という主にドジョウを捕る為の仕掛けです。
仕組みは流れの弱いダムサイト面に板を這わせて上流への流れを装い魚を登らせてカゴ網の中に落とすという単純なものです。
泳ぎの強い魚は一度カゴに入っても出てしまうので観察できるのは主に川の低層を移動する泳ぎの弱い魚や甲殻類となります。
サクラのつぼみがふくらみ始めた3月22日から5月7日までの6週間、カゴに入った魚の数は合計1215匹となりました。
以下はその内容と状況です。

のぼり落とし漁の仕掛け

U.捕獲魚種と種別捕獲数

表1.

NO. 魚  種 サイズ(cm) 匹数 NO. 魚  種 サイズ(cm) 匹数
@ ヨシノボリ類 5〜7 395 J アブラハヤ
A タモロコ 5〜8 328 K マルタウグイ 47
B モツゴ 5〜12 65 L ニゴイ 43
C オイカワ 4〜8 63 M ブルーギル
D フナ類 5〜27 10 N ドジョウ 11
E ムギツク 10〜12 O シマドジョウ 6〜9
F ウグイ 9〜12 P スジエビ 4〜6 119
G アユ 7〜12 116 Q モクズガニ 3〜5(甲幅)
H カワムツ R サナエトンボヤゴ 2〜3
I スゴモロコ * * * *

以上のような結果でした。観察期間中にまとまった雨が無く、全体的に捕獲総数は上がりませんでしたが、魚種的にはほぼ例年通りになりました。

5月上旬に捕獲した遡上アユ。体長は7〜12センチ程で、まだアユらしい特徴はあまり出ていません。今年は遡上数が多いのかアユの群れを追ってコアジサシがサギやカワウに混じりかなりの数が観察地点上空を飛んでいました。 河口からたどり着いたモクズガニの子供。
川で成長して秋に再び産卵のために川を下ります。モサモサ毛の生えたハサミで挟まれると物凄く痛い。
春のトウヨシノボリは産卵のための遡上です。
生まれた仔魚はそのまま海まで流下して行き、夏の初め頃に再び川を上ってきます。多摩川のヨシノボリ類が海まで到達できているのかは今のところ不明です。


V.日割り捕獲状況

水温:℃ 水深:cm 

表2. 3/23〜4/10

観察日 3/23 3/24 3/25 3/26 3/27 3/28 3/29 3/30 3/31 4/01 4/07 4/08 4/09 4/10
天 候 晴れ 晴れ 小雨 曇り 晴れ 晴れ 小雨 快晴 晴れ 晴れ 晴れ 晴れ
水 温 16.0 17.5 17.0 16.0 16.5 16.5 14.5 13.0 12.0 11.5 18.5 18.0 19.0 20.0
水 深 35 34 33 47 37 36 34 46 36 34 35 33 34 35
潮 時 中潮 大潮 大潮 大潮 中潮 中潮 中潮 中潮 小潮 小潮 中潮 大潮 大潮 大潮
@ヨシノボリ 34 21 37 13 * * 11 28 68 56
Aタモロコ 11 * 17 * 22 17
Bモツゴ * 12 * * 13
Cオイカワ * * * * * *
Dフナ * * * * * * * * * * * *
Eムギツク * * * * * * * *
Fアユ * * * * * * * * * * * * *
Gウグイ * * * * * * * * * * *
Hマルタウグイ * * * * * * * * * * * * *
Iニゴイ * * * * * * * * * * * * *
Jアブラハヤ * * * * * * * * * * * *
Kカワムツ * * * * * * * * * * * * * *
Lスゴモロコ * * * * * * * * * * * * *
Mブルーギル * * * * * * * * * * * * * *
Nドジョウ * * * * * * * * * * * * *
Oシマドジョウ * * * * * * * * * * * *
Pスジエビ 14 * 22 * 21 19 10
Qモクズガニ * * * * * * * * * * *
Rヤゴ * * * * * * * * * * * * * *
漁獲数 69 31 57 13 18 20 75 14 6 37 48 126 100


表3. 4/11〜5/07

観察日 4/11 4/12 4/14 4/20 4/21 4/22 4/23 4/24 4/25 4/27 5/03 5/04 5/05 5/07
天 候 晴れ 快晴 快晴 晴れ 小雨 晴れ 晴れ 晴れ 晴れ 小雨 晴れ 晴れ 晴れ
水 温 20.0 17.5 19.5 19.0 18.0 18.0 19.0 19.0 18.0 20.0 15.0 16.5 19.0 19.0
水 深 33 30 29 29 29 29 32 32 43 30 31 49 41 40
潮 時 中潮 中潮 中潮 中潮 中潮 中潮 大潮 大潮 大潮 中潮 長潮 若潮 中潮 大潮
@ヨシノボリ 26 * * 10 * 13 * 15 18
Aタモロコ * * * 17 16 * 174
Bモツゴ * * * * * * * *
Cオイカワ * * * * * * * * 14 * *
Dフナ * * * * * * * * * * * * *
Eムギツク * * * * * * * * * * * * *
Fアユ * * * * * * * 10 * * 71 26
Gウグイ * * * * * * * * * * *
Hマルタウグイ * * * * * * * * * * * * * *
Iニゴイ * * * * * * * * * * * * * *
Jアブラハヤ * * * * * * * * * * * * * *
Kカワムツ * * * * * * * * * * * * *
Lスゴモロコ * * * * * * * * * * * * * *
Mブルーギル * * * * * * * * * * * *
Nドジョウ * * * * * * * * * * * * * *
Oシマドジョウ * * * * * * * * * * * * *
Pスジエビ 17 * 14 15 * 13 * *
Qモクズガニ * * * * * * * * *
Rヤゴ * * * * * * * * * * * *
漁獲数 20 45 12 30 28 29 31 60 14 268 56

※水温は午前10時から11時までの仕掛け設置地点にて計測。
※水深表示は同時間帯における堰堤左岸ダムサイト直下の川底コンクリート面から水面までの高さを表示。しかしダムサイト中央にある可動水門の位置によって著しく水の影響を受ける為、全体としての流量や天候上の水位の変化と直接結びついていない。あくまでも参考として利用した。

W.観察を通じて想像できた事柄

1.潮汐と遡行のタイミング
海上保安庁刊行の潮汐表によると今回の観察期間中に潮の満ち引きが最大になる大潮は合計4回ありました。
ヨシノボリ類の日割り捕獲数で見ると観察期間中に20匹以上の捕獲数が有った日は全部で7日ありましたが、その7日間の内、大潮の日は5日で、残りの2日も大潮前後の2日間でした。
逆に捕獲が10匹以下だった10日間(仕掛けが流れた日を除く)その内、中潮以下だったのが9日間あり捕獲ゼロだった2日間は共に小潮という結果になりました。
これらの結果から想像すると潮の干満に関わらず水位が変わる事の無い中流域でも魚は何らかの変化を感じながら行動を取っているようです。
潮高別に捕獲数を割り出して見ると1日の平均捕獲数でも明らかな違いがありました。

4月9日に仕掛けに入ったヨシノボリの遡上群!! 浮き石の下で卵を守るトウヨシノボリの♂!!

表4.潮時別ヨシノボリ類における1日捕獲平均数

大潮日:平均 26.89匹

観 察 日 3/24 3/25 3/26 4/08 4/09 4/10 4/24 4/25 5/07 計9日
捕 獲 数 21 37 28 68 56 10 計242日

中潮日:平均 9.93匹

観 察 日 3/23 3/2 3/28 3/29 3/30 4/07 4/11 4/12 4/14 4/21 4/22 4/27 5/05 計15日
捕 獲 数 34 13 11 26 13 15 計149匹

小潮日:平均 1.33匹

観 察 日 3/31 4/01 5/04 計3日
捕 獲 数 計4匹

捕獲したヨシノボリ類の約9割以上はトウヨシノボリでしたが、残りのヨシノボリの中にはオオヨシノボリ等の特徴を持つものも多く、はっきりとした種の判別にまで至らなかったのが残念でした。
いずれにしても陸封されている可能性は高いようです。
観察を行った期間が産卵期の3月〜5月ということもあって仕掛けに入ったのは河口から遡上した養魚サイズではなく全て産卵のために上流を目指す成魚サイズでした。
『遡上は大潮の日に・・・・・・・』下流域では良く聞く話でしたが直接の潮の影響のない中流域でもそれらに深い関わりがある事が分りました。

2.増水と遡行のタイミング
観察期間中、川の水が濁る増水は3回ありましたが、いずれも小さく水位が20センチ以上高くなった増水はその内1回だけでした。
春先に増水する川の水は遡上魚にとっては大切な呼び水となります。従って今回は水量と遡行タイミングの変化は少々分り辛い年となりました。
唯一、強い濁流となった5月3日以降には捕獲数に大きな変化がありました。
濁流の増水中に魚が入ることは殆ど無く、濁流の収まるのを物陰でじっと待っているようです。
雨の止んだ2日後、水位もまだ高く、濁りも少し残った”ささにごり”の状態でしたが、この日、仕掛けカゴを上げた時は驚きました。
タモロコが174匹、アユも71匹入り、カゴの中が魚で一杯になっています。一度にこんなに多くの魚が入るのは初めてのことです。
おそらく雨が少ない分、一気に遡行が集中したものと考えられます。
昨年の観察でも数はそれほどでもありませんが、同じような変化が増水後に何度かありました。
大きな増水が収まり、水位が下がるような時に遡行は集中するようです。
水の濁り具合も深く関係するようで、特にアユはその傾向が強いことが想像できました。

増水後2日後、川の濁りがとれるのと同時にジャンプし始めるアユの遡上群。 堰堤の下で遡上を待機するアユの群れ。


3.水温と遡行のタイミング
春の早い時期の水温は、気温の変化ゃ雨水の流入などで大きく変化します。
特に3月30日〜4月1日までは突然降り出した雪の影響で水温が4℃以上も下がり11.5℃まで落ち込みました。
こういった日は全体の捕獲数も著しく減り、急激な水温の低下が魚達の遡行渋りを生むようです。
潮の満ち引きと殆ど関係のなかったスジエビの日割り捕獲数でみると、特徴的に水温が変化する初めと終りに良く動きました。
以上、種別捕獲数の変化から、潮高、水量、そして水温とこの三要素が夫々川を遡る生き物たちと深く関わりをもつことが分りました。

スジエビも産卵期には上流を目指す。 流れの弱い岸辺を遡上するウキゴリ。


X.観察を終えて

今年は水温の上がり方も早く、観察開始が少し遅かったのではないかと心配しています。
モクズガニの捕獲数が前だったのはそのせいかも知れません。
観察日を昨年より10日早く開始したのですが、昨年出合ったギバチやウキゴリなど、今回は堰の下で再開することは出来ませんでした。
しかし、ムギツクはいよいよ中流域での定着を成功させているようで、卵でお腹を膨らませた成魚が7匹入りました。
それにアユも昨年よりはかなり多く出会え、もしかすると今年は昨年以上のアユの豊作年になるのでは・・・・・・と、一人密かに胸を躍らせています。
僕はアユ釣りをしませんが、やはり地元の川へ魚が沢山帰って来るのは大変に幸せな気持ちになります。
約6週間に渡る集中観察でしたが、それなりに地流域を移動する、主に低層魚を中心とした記録を取ることが出来て、少しホッとしています。
多摩川の四季観察で、もっとも胸躍る春の魚たちと多く出会えた素敵な観察になりました。


By KEN NAKAMOTO
HP Design By TANSUIGYOCLUB
22.JUNE.2001

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