調布取水堰における右岸側魚道設置のお願いライン

調査期間 2001.04.10〜05.10
調査地 田園調布 調布取水堰
調査者 中本 賢


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T.モデル事業の中流域での効果

長雨の季節に入り、水かさの増した川がとうとうと流れています。
河口から遡上を開始したアユの稚魚も、すでに中流調布市付近では大きな群れとなって、活発に泳ぎ始めました。
平成三年度に、モデル事業として「魚がのぼりやすい川づくり」が採択され、この多摩川がモデル河川となって以来、多摩川では新しい魚道の設置や、遡上困難だった魚道の改築など、海と川を行き来する回遊性の魚たちにとって、この上ない環境へと生まれ変わりつつあります。
私の暮らす河口から24キロ地点でも、魚道改修の進んだ平成12年頃から、それまで見ることの出来なかったチチブやマルタウグイの大きな産卵群など、河口や下流域から移動して来る魚種が普通に見られるようになり、河口から遠く離れた中流域でありながら、ほのかに海の香りのする川となっています。



4月9日、河口から24キロ上河原堰下まで遡上を成功させたマルタウグイの産卵群。


 

U.調布取水堰と回遊魚

この多摩川を遡上する魚たちにとって、河口から13.2キロ地点にある調布取水堰は、川に入ってから最初に出会う人工的な障害物になります。
堰堤による流水落差は1メートル以上ありますが、堰中央部分にアイスハーバー型の魚道が前方へ突き出した形で付き、左岸、東京側にも落差の小さい船通しのような構造の門があって、常時適量な水の流れがあるようです。
川を遡上する生き物の中には、アユやマスのように強い突進力を持たない魚も数多くいます。生活の場を求めて遡上する、主にハゼ類などの小さな稚魚たちです。こういった泳ぎの弱い多くの遡上魚たちは、河川中央部の流心を避け、流れの弱い岸寄りの浅い場所を縫うようにして遡上して行きます。それに、そういった場所なら、大型の魚食性の魚に捕食される心配も少なくなります。
岸沿いの水際は、体力の弱い小さな遡上魚たちにとって、天然の魚道となっています。
4月中旬――。調布堰の下流側で、今年も多くのウキゴリやアユが、岸辺に沿って遡上し始めました。



東京都、調布取水堰

体長3センチ、岸よりの浅場を遡上するウキゴリの稚魚


V.堰堤下流側の現状

東京側の岸辺を遡行してくる魚は、そのまま常時水流のある水門を通過するようで、堰によって遡行が渋ることはなさそうです。しかし川崎側の岸辺を遡行して来る遡上群は、突き当たる堰堤右岸側に通過できる要素がないために、堰堤直下で一度溜まることになります。
遡上のピークとなる4月の下旬から5月の連休あたりまで、この川崎岸堰堤直下では、飛び越すことの出来ない高い落差に向い、多くの遡上魚がジャンプを繰り返しています。
上から覗いても、水の中が黒々とするほど、多くの遡上魚が溜まる日が何日も続きます。

調布堰右岸、越えられぬ落差も物ともせずに、何度もジャンプを繰り返すアユ。 
網ですくわれたり、ころがしバリで釣られたり、多摩川の密漁は、日中堂々と行われている。
水面下にカメラを入れてパッと散った後でもこれだけ写っていた。
水面を飛び出せば水鳥や密猟者、飛び出さなくても大型の魚食性の魚に追いまわされ、イヤハヤ春のアユは散々なのだ。

同じく調布堰右岸。ダムサイト面の隅っこを使って、モクズガニの子供がよじ登っている。甲羅幅2センチほどでとても可愛い。
昼間は浮き石の下で寝て、夜に遡行をする。
そのまま見ていると、流れが強すぎたのか剥がれて落ちてしまった。


W.魚道設置のお願い

この場所は、カメラを構える方々にとって、飛び跳ねるアユが撮影できる絶好のポイントになっています。毎年、この場所で撮影された写真やVTRが、各マスコミにて、春到来を紹介する時節ネタとして取り上げられています。
しかし、飛び越せない堰堤に行く手を阻まれたアユの姿は、本来なごやかな気分で見れるものではありません。
ひとけのない早朝にはサギやカワウが群がり、水面下ではバスやスズキなど魚食性の魚が、通常では想像出来ぬ効率の良さで、群れた遡上魚を捕食しています。
初夏に入る頃になると、遡上するアユの姿も少なくなりますが、あの大きな群れはどうなったのでしょう・・・。
迂回して、魚道や東京岸から遡上したかの、すべて捕食されてしまったのか、想像が及びません。
いずれにしても遡上ピーク時に、不自然な形で大量の遡上魚を堰堤下に溜めてしまうのは、せっかく帰って来てくれた魚たちに、少し酷なような気がしています。
重点対象魚種8種だけでなく、川を遡上する魚の多くは、底層や岸辺といった場所を遡行する泳ぎの弱い魚や甲殻類です。そして、そういった力の弱い小魚たちは、川環境の底辺を支えている大切な命でもあります。
調布堰は、水系にある堰堤の中で、一番海に近い所にある堰です。多摩川を回遊する生き物たちにとっては、これまでもそして今後も、最も多く乗り越えなければならない堰であり続けます。
一番目の中にある、小さな不都合を解決し、モデル事業のさらなる効果を期待しながら、調布取水堰、右岸魚道設置を心からお願い申し上げます。

By KEN NAKAMOTO
HP Design By TANSUIGYO CLUB’S SAKU
26.February.2002

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